卒業生に聴くプロジェクトリーダーとしてのサクセスストーリー
学生時代は、語学が好きで、外国の文化やライフスタイルに興味があり、北欧のデンマーク語を専攻した酒井さん。就活時代に望んだのは、「世界とつながれるようなクリエィティブな仕事がしたい」だったと話します。地元・長野から世界基準の会社に成長しようとする「サンクゼール」の姿勢に共感し、入社を決意。
店舗での接客を経験し、配属されたのは、総務人事部。「世界との…」という夢はあったけれど、社会人としての未熟さを自覚し、次々と課される業務をこなすことで精いっぱいだった毎日に、第一の転機が訪れたのは、数年後のことでした。
語学が堪能なこともあり、酒井さんは貿易実務を担当することに。中国での食器の買い付けに同行し、帰国するやいなや、今度はその食器を国内の店舗でどう販売するか、販売計画を立てる責任者に任命されました。食器が入ってくるのは、3か月後。「どう売ればいいの?」。初めての経験に戸惑い、焦りを感じていました。
「それがちょうど入社5年目で、そのタイミングでアメリカ研修があったんです」
アメリカで酒井さんが向かったのは、キッチン用品ブランド「ウィリアムズソノマ」。店舗全体の空間演出、棚の陳列法、すべてに魅力に感じた酒井さんは、店舗全体に漂う共通点に気づき、店員さんに「どういう仕組みで、作られているんですか」と尋ねます。「ビジュアルマーチャンダイジング部署からマニュアルが送られてくるんですよ」という答えに驚き、初めてVMDという言葉を聞いたそうです。
帰国後にまとめた、VMDの視点を取り入れた研修レポートは好評で、社内中に回覧されたほど。「VMDは自分に向いているかも…」。胸の内で、そんな小さな確信を得たようです。JDCAのスクールを知ったのもそのころですが、長野から通う決断にまでは至りませんでした。
VMDの勉強や販売促進を頑張ろうと思っていた矢先、またしても総務人事部に異動。それから1年半後、和のブランド「久世福商店」の立ち上げに伴い、「新業態開発室」という新部署ができ、やがて「MD本部」が誕生。「VMDのわかる酒井さんに来てほしい」という会社の意向で、商品を作る最前線へと舞い戻った酒井さん。バイヤーとしての手ごたえを実感しながら「VMDをもっと勉強したい。20代の今なら、長野から横浜まで通えるかもしれない」と、JDCAの入学を決意しました。
「レッスンに参加するたびに知識が増え、すぐに会社で実践できるのは、本当にありがたかったです。社内会議では、使う言葉が変わり、説得力が増したように感じました。ロジックを学んでいるから、自分に自信がもてるようになったと思います」
その後、さらに大きなプロジェクトが待ち構えていました。
「私の仕事のいちばんの転機は、2013年9月に渋谷にオープンした商業施設「ヒカリエ」への出店でした」と、語るほど、酒井さんには重責がのしかかりました。1つの店舗プロジェクトを総合的に担当するのは、初めてのことだったのです。
従来のショッピングモールとは客層が異なる場所での挑戦は、スクールで学んだ棚の陳列法、什器の提案、回遊性をよくするゾーニングなど、さまざまな手法とアイデアを集結し、大成功を収めます。この体験で酒井さんは、「お店は、物、空間、人の3つの要素で構成されていることに気づいたんです。今でもその考えがベースになっています」と、力強く語ります。
そして、新設部署「新業態開発チーム」へと抜擢されるのです。商業施設出店に向けてのプレゼン資料作り、プレゼン本番、商品開発、人材育成など、活躍の場を広げ、実力を発揮するなかで、またしてもビッグプロジェクトが巡ってきます。
それが、「GINZA SIX」出店のプロジェクトリーダーでした。出店が決まり、準備期間は残すところ1年となったある日、早朝会議が招集され、酒井さんはひとつの提案資料を持参しました。それが社長の目に留まり、「プロジェクトリーダーは酒井さんに」と、白羽の矢が立ちます。同時期に並行して「サンクゼール」をリブランドする話も決まり、「こんなに大きな仕事は、私には無理と思い、1か月くらい悩みました。四国のほうに逃げるように旅行に出かけたり。どうすればいいのか、わからなくて、JDCAの先生に相談をしました」
先生からの返信メールを読んで、自分ひとりで背負い込んでいることに気づき、気持ちがラクになったと言います。
先生からは、「リーダーは調整役だから、優秀なブレーンをどれだけ揃えられるかが大事。酒井さんが苦手なことは、得意な人に任せたらいいんだよ」というアドバイスを受けたそうです。
ブランドを見直して再構築し、新しくなった「サンクゼール」に、「GINZA SIX」のコンセプト、ラグジュアリー感を加えた店舗は、酒井さんの集大成といえる工夫とこだわりが随所に感じられます。店は連日大勢の人で賑わい、大盛況です。
アメリカ出張など、酒井さんの業務はますます多岐にわたり、後進の育成にもいっそう力を入れ始めています。
授業で教わったことはすぐに実践できることが多く、仕事の解決策を見つけることもしょっちゅうでした。そんな私が、いちばん役立ったと感じているのが、プレゼンの授業です。クライアントへのヒアリングの進め方から始まり、スライドの文字の大きさ、まとめ方など、細かく的確に教えてもらえたことは、大きな自信となりました。
プレゼン資料を作るのは好きですが、人前で話すことはあまり得意ではありません。そんな私が、デベロッパーさんの前でも堂々とプレゼンできるのは、正攻法を授業で学べたからです。
スクールに通う前は、30代が目前。それなのに、自分の専門分野が見つからないという焦りもありました。
同期のメンバーは、もの作りが得意な人、デザインが得意な人というように、それぞれ得意なことが違います。同じ授業を受けているから、違いは歴然。他人と比較することで初めて、自分はプランニングやプレゼンが得意だし、それで人の役に立てることができると気づけました。
ひとつのプロジェクトを成功させるには、たくさんの職種の人が関わっています。苦手なことは得意な人に任せ、協力をしていく。そのことを知り、体験できたことが、私の不安を払拭し、プロジェクトリーダーとして背中を押してくれたと思います。