ディスプレイのヒト、モノ、コトをつなぐ JDCA

資料請求
  1. JDCA
  2. ディスプレイクリエイターとは
  3. 講師からのメッセージ
  4. 倉地 誠

MESSAGE
講師からのメッセージ

倉地 誠

魅力ある空間を導き出す演出系VMのプロフェッショナル

今年から新たにジャパンディスプレイクリエイターアカデミー(JDCA)の講師陣に加わった、VMDディレクターの倉地誠さん。全国に130店舗を展開するアパレルブランド「niko and …」のチーフディレクターVMD でありながら、2020年からはフラッグショップ「niko and … TOKYO」の専属VMDとして空間演出に特化したストアープロデュースのシカケや制作も担っています。アパレルのVMDとして20年以上のキャリアを誇り、第一線で活躍している倉地さんが、VMDのプロとして必要なこと、キャリアアップのコツなどを実体験も交えて本音を熱く語っていただきました。

急拡大するアパレルブランドのVMD担当者として全国に店舗を作る

武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科を卒業した倉地さんは、アパレルブランド「COMME CA ISM(コムサイズム)」などを手がけるFIVE FOXes(ファイブフォックス)に入社し、アパレルの店舗空間をディスプレイするプロとしてスタートを切りました。
「僕が入社した1996年当時は、コムサイズムというファミリー層を対象としたブランドの立ち上げ時期と重なり、全国に急拡大で出店していたんです。そのブランドのVMDをやることになり、6年間くらい担当していました。店舗空間を設営し、店をオープンさせたら、違う街に行って同じように店舗空間を作ってオープンさせて…を繰り返していました。恐らく全都道府県を制覇しました。思えばそれが、僕の基礎になりました」。
とくに春と秋は出店ラッシュでツアーのように全国を回り、その合間のオフシーズンは既存店のディスプレイやレイアウト、ゾーニングなどのチェンジを手がけていたと話します。途中からは、雑貨を扱うブランド「MONO COMME CA(モノコムサ)」が始まり、雑貨も得意だった倉地さんは、モノコムサのメインVMDなども任されるように。アパレルから雑貨まで活動の幅が広がり、前途洋々かと思いきや、人生は思わぬ方向に進みます。

VMDから離れ、異業種で武者修行。約4年のブランクを経て、復活!

「今思えば若気の至りなんですが、6年間、同じような暮らしを続けていたので飽きてしまったんです。会社を辞めて、大好きなアメ車を並行輸入する販売店に再就職しました」。
ところが身につけたVMDの知識は車業界ではまったく通用せず、自分の甘さを痛感。1年足らずでギブアップし、次に就いたのが、不動産会社でした。家を売る営業を3年6カ月続けた倉地さんは、「不動産の営業は本当にしんどいです。何千万円もする家を簡単に買いますって言う人はいないですよね。人間力というか、会話力というか、信用してもらうまで通いつめるような営業も経験しました」。
大変さのなかにもやりがいを感じ、不動産業界に慣れてきた倉地さんに、ファイブフォックス時代の知り合いから新しいアパレルブランドを立ち上げることになったので手伝ってほしいという誘いの連絡が入りました。それが、倉地さんも創立メンバーのひとりとなり、2007年に創立したTORINITYARTS(トリニティアーツ)です。後に合併し、現在在籍しているADASTRIA(アダストリア)となっています。
不動産業界からもう一度アパレルに戻ろうと決意した当時の心境を倉地さんは次のように話します。
「不動産をやっていると、いろんな職種の人と話をするんです。ローンを組めない人に物件を案内しても無駄ですから、最初に職業、年収、家族構成など、個人的なことをいろいろと聞くんですが、そのうちにアパレルの人の稼ぎって低いなーと思うようになって。おしゃれでこだわりがあるのに、お金はもっていないんです。僕が携わってきたアパレルの仕事は店舗をオープンさせることで、楽しくやれていたことを改めて思い出したんです。だったらもう1回アパレルに戻って、自分にできることをやろうと決心しました」。
アパレル業界に再び戻った倉地さんは、4年間離れていたブランクを考慮し、最初は出店交渉などを手がける店舗開発を担ったと言います。直近の不動産業で培ったノウハウが、アパレルにも役立ったというのです。回り道のように見えながら、思わぬキャリアアップにつながっていたなんて驚きますね。
物件成約を得るために日々苦労した不動産業界での経験を生かし、今でも実践している2つのことを教えてくれました。
「1つは、コミュニケーション。取引先はもちろん、社内の他部署の人とか、大きなプロジェクトを一緒に進めている仲間から信用してもらえる伝え方、話し方を心がけています。もうひとつが、決を取ることです。例えば打ち合わせで、一度持ち帰ります、という場面ってありますよね。決めきれずに帰ると、物事は進みません。だから、こういう理由でこっちにする、とその場で決めるようにしています。そのためには、決められる立場になることと、この人なら大丈夫と信用してもらえる自分になることが結局大事なんです」。

演出系VMのシカケとは何か?これからのVMDに求められるもの

現在、倉地さんは全国に130店舗あるアパレルブランド「niko and …」のチーフディレクターVMDとして活躍するかたわら、2020年3月からは旗艦店「niko and … TOKYO」の専属VMDとして東京本店の空間演出に特化したストアープロデュースのシカケや制作を担っています。
「僕の主な仕事はVMなので、演出さんという感じですね。各地で展開する既存店には、新商品のレイアウトやディスプレイの指示書を送り、各店のスタッフがその内容を理解して店作りをしてくれています。それに対して、niko and …TOKYOは別枠になっていて、僕はこの1店舗の専属としてこの店だけのマーケティング的な活動もしています。これまでにない新しい試みで、名古屋や神戸など4つの大型店にも専属のVMDが常駐しています」。
コロナ禍でなければ、東京を含めた5つの大型店のVMDはすべて倉地さんに任され、各地を行き来するはずでした。ところが往来できなくなったことで、各店舗にVMDの担当者が配置されたのです。その結果、同じテーマでも各店舗でディスプレイに違いが生まれることになり、とてもおもしろかった、と楽しそうに話します。
では、倉地さんが手がけている演出系VMのシカケとは何か、伺ってみましょう。
「演出系VMというのは、舞台美術に例えるなら、美術さんの役割です。ディスプレイの責任者として、お客さんを楽しませる考え方や見せ方を提案します。空間全体を見渡して、什器とか足りないものがあれば作ったりしますが、商品のレイアウトとかを触ったりはほとんどしないです」。
では、誰が商品を並べたりするのでしょうか。
「僕も若いころは、自分で全部並べたりしていましたが、今はやりません。なぜこう並べるのかといった、そのときのVMDの考え方を接客するスタッフにまずは理解してもらいます。その上で、スタッフ自身に並べてもらわないと、お客さんに商品やディスプレイのことを語れないからダメなんです。これからのVMD担当者は、絵を使ったりしていいので、店舗スタッフに考えを伝えられるコミュニケーションスキルも必要になってくると感じています」。

VMDの考え方をチームで共有し、動く。空き時間を個人のスキルアップに生かす

倉地さんが在籍する会社、アダストリアには「niko and …」のほか、全部でおよそ40ものアパレルブランドがあります。会社員ですから、異動はつきもの。倉地さんは、どのブランドへの異動も平気
で引き受けてきました。
「僕、1回アパレルを離れて別のところに行ったでしょ。そこで交渉力とか、決断力とか、行動力がついて戻ってきたので、なんでもやります、という感じなんです」。
もちろん、それぞれのブランドによって求められることは違うと前置きした上で、さらにこう言葉を続けます。
「そのブランドで求められていることは何か。そこに自分を合わせて誠実にやる、ということを意識して行っています。それと同時に、前にいたブランドの人とも仲がいいから、あちこちからいろんな案件が舞い込むんです。僕は、それを断らずに一緒にやっています。たぶんそういう人って、あまりいないんだと思いますね」。
多くの人が断る理由を、倉地さんは忙しいからだと分析します。そして、忙しくしなければいいと軽やかに言い切ります。そのポイントは、考え方を伝えて、一緒に動いてくれる仲間を作ることです。
「仲間と考え方を共有し、チームで動くと、時間に余裕が生まれるんです。その時間を活用して、売り場を説明するために必要なパースを学んだらいいよとか、何かレベルアップにつながることを体得する時間に当ててほしいと思います。ひとりで作業に没入するのではなく、チームワークって本当に大事です」。

VMD力を高める、倉地さんが実践するインプットとアウトプットの仕方

VMDという仕事を続けるうえで、学ぶ姿勢はめちゃくちゃ必要だと倉地さんは言います。インプットとアウトプットを、どのようにされているのか、気になりますよね。
「僕の場合、視察も含めて人に勧められたり、話題になっていたりするものなど、見に行かなければいけない施設とか、お店などは、全部スマホのマップに落とし込んでいます。そして、見に行ったら、何がよかったのか、言えるようにしています。味なのか、接客なのか、店作りなのか、全部なのか、ショッピングモールなら隣の店と比べてどうだったのか。そういうことが言えないとダメですね」。
アパレルに限らず、飲食店などいろんな店に行くと話す倉地さん。「いま、アウトドアやキャンプを扱う店は旬で、おもしろいですね。キャンプ系は道具を陳列するだけで売り場ができたように感じるかもしれませんが、体験空間みたいなのもいいですよね。アウトドア系だけを見ていても店の優劣は自然とつきますよ」。
インプットした情報を真っ先にアウトプットするのは、会社のチーム。ここに行ったほうがいいよとお互いに情報交換をしています。さらに倉地さんならではのユニークな活動が、「勝手にコンサル」。その店からVMの依頼を受けたと仮定して、どこがいいのか、どこ
が悪いのか、倉地さんは勝手にコンサルタントをすることもあるのだとか。そういうことをしていると、ここがツボだな、というものが見えてくると言います。勝手にコンサルをするために考えた5つのチェックポイントなど、倉地さんの話は熱を帯びて尽きません。

仕事も趣味も分け隔てなく、真剣に全力で取り組むから面白い

仕事への情熱同様、倉地さんはプライベートも充実しています。とくに力を入れているのが、この2つ。ひとつは、3年ほど前からはまっているトレイルランニング。「先日も静岡の山中を70㎞走ってきました。僕らは13時間40分かかりました」と楽しそう。会社の有志たちで作ったチームでエントリーし、山の中を走るそうですが、達成感は何ものにも代えがたいと満足そうに話します。
発端は、出張先で行っていた早朝ランニング。出張が多いのに気づけば、ホテルと店の往復だけ。せっかく大阪に来ているのに大阪城も見ないで東京に帰るなんてもったいない。だけど、仕事中に行くわけにもいかないし…。ということで思いついたのが、早朝ランニングだったというわけ。基本は毎朝1時間、約10km。走れば街の様子がわかっておもしろいし、仕事の段取りなど考えごとをするのにもぴったり。
倉地さんの走りに会社の仲間が徐々に加わり、ついにはマラソン大会に出場するまでになったとか。そして現在、トレイルランニングに落ち着いたようです。チームワークのよさは、プライベートでも健在です。
もうひとつが、会社のボランティア休暇を利用した、和綿栽培のボランティア活動です。栃木県の渡良瀬に、日本古来の綿を種から無農薬で育てている農家さんがあり、1年に3回出向いて種まき、草取り、収穫のボランティア活動をするというもの。会社の有志を募ってもう10年も続いています。
「活動を引っ張っていた前理事長は昨年亡くなりましたが、『止まず巡る』という言葉を残してくれて。止まらずに巡りくるのが自然の摂理ということなんですが、理事長の言葉をリスペクトするなら、何年経とうが、来なくなる理由はないと思って通い続けています」。
何事にも真剣に向き合う倉地さんから、最後に受講を考えている皆さんへのメッセージです。
「JDCAに学びに来ている時点で、自分のための時間を作っているわけですから素晴らしいことだと思います。それを次の一手につなげていくために、どうぞアンテナを張り巡らせて吸収してください。僕が経験したこと、知っていることは惜しみなくすべてお伝えしたいと思っているので、質問しまくってください。いろいろ聞いた後、
行動して結果を出すのはあなた次第です。そのことを肝に銘じて思いっきり学びましょう。待っています」。

倉地 誠

株式会社アダストリア
niko and . . . チーフディレクターVMD

美大卒業後、ファイブフォックスでVMDの経験を積む。その後異業種での経験を経て、株式会社アダストリアに創立より参加。ベイフロー・グローバルワーク等数ブランドのVDMを歴任し、現在ニコアンドチーフディレクターVMDとして、空間演出に特化したStoreプロデュースを追求して邁進中。